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クリスマス前の仕事場から。

私のクライアントの一人で、30歳のときの交通事故で、もう10年以上も車椅子の生活を余儀なくされている女性がいる。右半身不随、左手の痙攣があるため、食事はもちろん、お手洗いもヘルプが必要。スピーチにも影響があるため、私とのセッションは、彼女が何度も言葉を繰り返し、3度か4度目でやっと聞き取れる、そんな繰り返し。それでも、彼女の認識力や聴覚は事故の影響を受けていないため、私が話す場合にはきちんと聞き取り理解ができている。

いつも明るくて、自分の権利主張をはっきりし(それで諍いになることも)、いつか両足で立てるようになりたい、という夢を捨てずに理学療法に励む彼女。その前向きさは、私が学ぶものが本当に多いくらい。そんな彼女がこの日は、「権利主張モード」でセッションにやってきた。「会社主催のクリスマス・パーティに、行きたい」と言うのだ。

会社ではクライアント向けにクリスマス・パーティを主催している。クリニックではなく、レストランの大きな個室を貸切にして、毎年盛大に行っているものだ。家族と一緒に過ごせない、旅行などができない患者さんが多いので、クリスマス時期は彼らにとっては寂しい時期。なので、彼らはこのパーティをとっても楽しみにしていた。そんな中、毎年、車椅子のクライアントや重度な症状がある患者に限っては、家族同伴をお願いしている(大人数が集まりスタッフの数が足りないため)。この彼女の場合、家族はみんな働いているため、毎年、クリスマスパーティに来れずにいたのだった。

「家族は来れないけれど、私は行ける。行きたい」
クリスマスパーティについて彼女が話したのは初めてだった。彼女の力強い口調。今まで一度もクリスマス・パーティに、そして年に数回のOuting(公園への散歩などのイベント)にも一度も来れなかった、彼女の気持ちがいっぱいこもっているようだった。
いつもleft outされてしまって悲しかっただろうに・・・、常々、重症患者を除外しなければならないようなイベントは乗り気でなく、彼らのためのOutingを別に企画しよう、と主張していた私は、その日何とか上司にかけあって、条件付き(彼女、そして他のクライアントの安全のための条件)で彼女のパーティ参加にGoサインをもらった。(どうして今までそうしなかったのだろう!)

パーティに行ける、というニュースを聞いた時の彼女の嬉しそうな顔・・・今でも忘れられない!半身麻痺で表情はかたいものの、唇からは笑みがこぼれ、眼は輝いていて、クライアントのempowermentができた、私にとっても充実した一日だった。その後彼女は何度もなんども、レストランに行くまでの交通機関の確保、レストランでのシミュレーションなどをセッション中に楽しそうに話していた。

が、数日後、彼女は私のところにきて「やっぱり行かない」と言い出した。驚きをかくせず、どうして、と聞くと、スタッフの負担(お手洗いや食事の付き添いをする専門スタッフたちがいる)になるのが嫌だから、と言う。それから少しずつ色々な話を二人でしたけれど、彼女の意志は固く、もうパーティに行かない、と決めているようだった。彼女は始終微笑んでいて、その顔はとっても清清しかった。そして、「行ってもいいんだ、ってわかっただけで嬉しかったんだ」とつぶやいた彼女。その言葉だけで、クリスマスパーティを楽しむ以上の価値があった、とそう言うのだ。

パーティで楽しんでいる彼女を見たい、というのはきっと私の自己満足だろうから、彼女の意志を尊重することがここでは大切だけれど。人間っておもしろい、奥が深いなぁ、と思わず考え込んでしまったケースなのだった。
by eugeen | 2006-12-20 16:09 | 仕事・キャリア関連

大学院・結婚・就職・出産その後の生活@Los Angeles and Orange County, CA 最近はすっかりお家派…。


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